【愛媛新聞 社説】原子力協定承認へ 福島事故の教訓を忘れたのか
愛媛新聞 特集社説2011年12月04日(日)
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201112047060.html
原子力協定承認へ 福島事故の教訓を忘れたのか
東京電力福島第1原発事故が収束しない中、政府は再び原発輸出への一歩を踏み出した。事故の反省と教訓を置き去りにしたままの姿勢が許されるはずもなく、強い疑問と憤りを禁じ得ない。
ヨルダンやベトナムなど4カ国への原発技術移転などを可能にする原子力協定締結の承認案が、衆院外務委員会で可決された。今国会中に衆参両院で採決され、4協定が承認されることになる。
またしても野田佳彦首相の独善的な見切り発車に、与野党そろって追随した格好だ。国際社会の未来さえ左右しかねない重要な協定だけに、まずは政策決定機関として委員会の見識を問いたい。
日本の原発技術への信頼は地に落ち、エネルギー政策の見通しも不透明だ。そういう時期に、品質保証のない商品を売りつけるような政策が理解されようか。
「協力に意義がある。これまでの外交交渉、信頼関係をふまえた」という野田首相の姿勢は偏重している。求められるままに協力する姿勢は、理念なき外交そのものだ。
協定の締結は、無期限に先送りすべきである。
日本に求められているのは事故の原因とその教訓を、余すことなく国際社会に情報提供することだ。その上で「日本の技術」は輸出に値しないと率直に自重するのが、先進国としての責務だ。
今回の協定相手国は、ほかにロシアと韓国。確かに各国とも、日本の原発技術への期待感は強い。特に原発建設計画の発注先決定を年内に控えるヨルダンは、日本側に承認を強く求めているとされる。
しかし各国とも、日本の原発事故の重大性を認識しないまま、技術や資材の提供のみを求めているのが現実だ。
たとえば、原子力協定締結交渉がまもなく再開されるインドは、原発推進に極めて積極的だ。先日の視察では、原子力公社の技術担当副総裁が「事故を教訓に安全な原発を推進したい。事故を起こした原発より無事だった原発に学ぶべきだ」と述べた。
事故を、むしろ原発推進への契機であるととらえているのが実情といえる。
インドだけではあるまい。この現実は、日本が、原発事故の深刻さを国際社会に正確に伝えていないということの裏返しでもある。
事故把握と対応の甘さ、情報公開の不備、自省の欠如。日本は事故後、いくつもの失態を重ねてきた。その上、原子力協定を結ぶことでさらに恥の上塗りをする愚かさを、重ねて指摘したい。
政府がいま行うべきは、原発先進国の認識を捨て去り、技術と資材の利用を凍結することだ。原発依存から脱却する勇気を持たずして、日本の再興も信頼回復もない。