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【京都新聞】今里滋氏(同志社大学政策学部教授) 脱原発へ大学院発公益事業 「大学発の連帯経済型市民公益事業が着実に脱原発社会づくりに貢献している」

「ソフィア 京都新聞文化会議」より
http://www.kyoto-np.co.jp/info/sofia/20130203_5.html

今里滋氏 脱原発へ大学院発公益事業

(写真)いまさと・しげる 1951年福岡県生まれ。九州大法学部卒。法学博士。九州大名誉教授。2003年から現職。専門は公共政策論。きょうと食育ネットワーク代表。

この秋学期、わが大学院で少々画期的な試みを行った。インターネット利用の通話ソフト「スカイプ」を使った、スペインからのリアルタイムの授業がそれだ。講師は地域通貨の分野で世界的に著名な広田裕之(やすゆき)氏。数種類のスペイン語ポルトガル語に英独仏伊語、韓国語まで自在に使いこなす語学の達人でもある。スマートフォンとスピーカーさえあれば、まるでそこに講師本人がいるかのように議論もできる。講義は教室で直接教員が行うものという“常識”はもはや通用しない。

 昨夏、この広田氏の案内でスペイン各地を回った。ラテン系諸国で盛んな「新しい経済」としての連帯経済の実践を学ぶためだ。その一つがカタルーニャ州東部のジローナ大学を拠点とする社会的協同組合ソム・エネルジア。総発電量の4割以上が再生可能エネルギーというスペインでは発送電分離が徹底している。この組合は市民から出資者を募って各地に設置した太陽光パネルを次々に送電網につないでいる。1月末時点で出資者は約6000人、発電量は14万キロワットに及ぶ。昨年8月の訪問時から実に10倍以上の伸びだ。大学発の連帯経済型市民公益事業が着実に脱原発社会づくりに貢献している。

 筆者も、大学教員のかたわら、いくつかの市民公益事業を手がけてきた。日本初の地域密着型カーシェアリング事業、市民株式会社方式での劇場経営、「命と食と農をつなぐ」をミッションとしたコミュニティ・レストラン等である(いずれも福岡市)。

 この経験を生かして大学院に設けたのがソーシャル・イノベーション研究コース。社会をよくしたいという熱い志を持つ老若男女が入学し次々と社会起業家に育っている。その中に徳島市から通う72歳の建築家にして住宅業経営者がいる。福島原発事故以来、何とか脱原発社会を実現したいと苦心惨憺(さんたん)の末、従来の6倍近い太陽光発電が可能な住宅「めぐみ+(プラス)」を開発した。

 民主党政権時代に立法化された固定価格買い取り制を使うと住宅ローンの大部分を屋根が払ってくれるから、若い世代の住宅費負担を軽減できるという効果もある。数々の特許を持つこの工法は不況にあえぐ中小建築業者に安価に提供する予定だ。所有地に実証棟を建て始めるなど事業化の衝に当たるのは元気溌剌(はつらつ)な62歳になる女性院生。京都から大学院発の市民公益事業が大きく羽ばたこうとしている。

同志社大政策学部教授)

[京都新聞 2013年02月03日掲載]